医学的な意味は無いそうです
古来から妊娠5ヶ月目の戌の日に帯を巻いて安産を祈る習慣が日本にはあります。古い習慣ですから当たり前のように行われていますが、サラシを使った巻き方や、岩田帯の形状を見ても特に医学的な意味はありません。帯を巻くことでお腹を冷やさないようにするといっても、薄い綿製の腹帯には普通の綿シャツがお腹の周りにある程度の保温性しかありませんね。綿製の衣類や帯は汗を吸って濡れるとなかなか乾きませんし、風に当たれば気化熱でその濡れている部分の温度が一気に下がります。お腹の表面の冷たさを気にするべきではなく、お腹の中、胎盤への血流の方こそ目を向けられなければなりません。
今では妊婦帯などの形状も色々考えられた物になり、お腹をへその上まで帯でしっかり締めてしまうような製品は少ないと思います。しかし、腹帯、サラシやきつめのガードルなどでへその上までしっかり締めすぎるとどのような事が起こるでしょうか?
腹部を圧迫すると子宮の後ろの動脈・静脈・リンパ管がつぶれる
妊娠5ヶ月だとお腹の大きさが目立ち始める頃で、胎児の重さは300g程度、身長は約25cmで、それなりに大きくなっています。腹帯などで前後からへその部分まで締めてしまうと、赤ちゃんの入った子宮が背側にある背骨に押しつけられる形になってしまいます。その背骨の前には大動脈、大静脈、リンパ管があり、子宮に挟まれて圧迫されると、静脈血が下半身から心臓へ戻りにくくなり、脚がむくんだり(浮腫)静脈がボコボコっと浮き出た状態(静脈瘤)になります。下半身からのリンパ液も流れにくく、脚のむくみが両側でひどくなるでしょう。大動脈、左右の脚へつながる腸骨動脈や子宮動脈が圧迫されると胎盤への血流も減りますし、前述したとおり静脈血が下半身に滞ると結局動脈の流れ自体が悪くなるのでますます子宮への血流が減少します。さらに手足の指先への血流が減れば冷え性がひどくなり、ふくらはぎなど身体の末端に近い大きな筋肉が酸素不足になるとこむら返りも起こりやすくなるのです。さらに腎臓への血流が減ると「もっと血圧を上げて血液を腎臓に送って欲しい」という反応が起こり、アンジオテンシンというホルモンが作られます。このホルモンの影響によって血圧が上がり、いわゆる妊娠高血圧症と呼ばれる状態になってしまいます。同時に腎臓の機能が低下して尿タンパクが増えたりします。
胎盤への血流が減ると胎盤機能不全となり、赤ちゃんが栄養不足・酸素不足になって弱ってしまいます。こうした症状がそろうと妊娠中毒症と呼ばれる状態になってしまうので、腹帯をきつく締めすぎないようにしてください。(2005年4月より、妊娠中毒症は妊娠高血圧症候群と呼ばれるようになりました。)年配の方の中には「腹帯を締めないとダメ!」と強要してくる人もいらっしゃいますし、贈り物として腹帯を頂くこともあるでしょう。古事記にも腹帯についての記述があるくらい古い習慣でもあるので、腹帯を絶対に締めるなとは言いませんが、儀式としての意味があると割り切って着用するのにとどめておきましょう。
結論:骨盤を締めるベルトには意味がありますが、腹部を強く圧迫する戌の腹帯には意味がありません。
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